「どう」伝えるか
ここまでの章では、「目的確認(なぜ)」や内容吟味(何を)」について紹介されてきた。この章では、「方法選択(どう)」について扱っていく。何のためにつたえるかを確定して、どのような思いを伝えるのかを吟味した上で、その目的を達するために最上の方法は何かを選択していくという。なので学級通信は、あくまで1つのツールである。
ツールを見極める
渡辺先生はどのような方法のパターンがあるか網羅的に学ぶことの重要性に触れ、伝えるツールを分類して紹介している。ツールや方法の特徴や強みをおさえておくことで、相手や状況に合わせてベストミックスを考えていくことが重要だとしている。
種類 | 特徴 |
言葉以外の方法 | ・「あえて言葉を使わないこと」により、早く思いが伝ったり、 相手がそれを受け取りやすくなったりする |
話し言葉(音声) | ・音声なので消えやすい。 ・声量や表情など要素を組み合わせて思いを伝える。 ・間違えた時にその場で言い直しができる。 ・相手がいるため比較的に素早く言葉を紡ぐ必要がある。 |
書き言葉(文字) | ・文字なので残りやすい。 ・基本的にテキストにみで思いを伝える。 ・手元を離れると基本的に書き直せない。 ・相手がいないためじっくりと言葉を紡ぐことができる。 |
タイミングを見極める
ツールを確定したならば、その次にタイミングを考えていく。伝える内容は同じでも、伝えるタイミングによってその効果は大きく変わってくる。とくに、「自分の失敗した場面」から振り返って考えるように渡辺先生はおっしゃっている。例えば、「叱るときは、時間を空けて冷静に。褒めるときは、即座に情熱的に」という基本を押さえておくだけでも子どもへの言葉の入り方は変わってくる。
渡し手を見極める
ここでは、「ウインザー効果」について紹介されている。ウィンザー効果とは、「当事者が自ら発信する情報よりも、他者を介して発信された情報の方が、信頼性を獲得しやすい」とする心理効果だそうだ。これは利害関係がなければないほど、情報の信頼性が増す。例えば、担任が直接A君を褒めるよりも、利害関係のない人が「担任の先生がA君のこと褒めていたよ」とした方が信頼性が増すということです。
この心理効果を活かすために、学級便りが有効であると渡辺先生は言う。担任からの直接の話し言葉だけでなく、通信による書き言葉が残り、さらにそれを読んだ第三者からほめてもらえる可能性が増すからだ。同じ「褒める」というかかわりでも、「渡し手」が異なるだけでその効果は大きく変わってくる。
ウィンザー効果とずれるかもしれないが、私は子どもたちを褒めたいときに、あえて「職員室で○○のように褒められていたよ」という伝え方をすることがある。これも直接担任が言うよりも信頼性が増すのではと思っている。
場所を見極める
ここでは、「ほめる時は、衆目を集める賑やかな場所で。」「叱る時は、人目がつかない静かな場所で。」という原則にふれている。
重さを見極める
ここでは、上で扱ってきたそれぞれの効果の軽重について解説をしている。渡辺先生が言うには、「効果」について毎度マキシマムを狙うのではなく、ちょうど相手が受け取りやすい重さに加減することも時には大切だという。具体例としてあげられているのが、高学年女子の褒め方である。上の場所の原則に従えば、衆目を集める賑やかな場所で褒めることが良いとなる。しかし、中には目立つのを嫌がる子もいるため、そのような場合は、軽く褒めたり、少人数の場を選んだりとあえて効果の重さを調節することが大切になってくる。
つまり、「どんな言葉を言うか」だけでなく、「どんな言葉を言わないか」にこだわっていく必要がある。不必要なことを極力言わない決断を下すことにより、「先生は本当に大切な内容しか言わない」というような受け取り方をする必要でる。
距離を見極める
重さと同様に、「適切な距離を設計すること」も大切であると渡辺先生はおっしゃっている。ここでは、5年生のときに学級崩壊を起こしたクラスへのアプローチを例にあげている。自分のことをダイレクトに考えさせられるよりも、一見関係なさそうなエピソードをとおしての方が、深い内省が生まれやすくなる。考える事象との間にある「距離感」が、自分のことを落ち着いて振り返るスペースをつくり、深い気付きを生み出してくれるという。
ワーク
この章の最後には、チューニングシートの二回目の演習が設定されている。一回目よりも実践的に、どんな言葉を届けるかを考えるワークである。前線で多様するのは、基本的に話し言葉である。「その話し言葉の力を磨く基礎トレーニングとして、書くことの練習を日々続ける」と渡辺先生は主張している。