読書記録『教室を動かす言葉のチカラ』② 著:渡辺道治 発:学陽書房

第2章 「誰」に伝えるのか?

 「学級通信を誰に向けて書いていますか?」と渡辺先生に聞かれたら、私は「学級の子どもたちとその保護者に向けて」と答えるだろう。それに対して、「では、学級の児童と保護者に向けて書いたその学級通信は、どのくらいの人数の心にとどいているでしょうか。」と問われたら、言葉に詰まると思う。渡辺先生によると、「心に届く」とは、情報の存在や中身を単に「知った」「わかった」という段階よりも、もう一段深い状態を指す。もっと具体的に言うと、受け手の状態とは大きく「認知→理解→納得→共感」の4段階に分けられ、さきほどの「心に届く」とは、「認知、理解」から「納得、共感」の段階までいった状態だそうだ。学級通信とは、この「納得、共感」の段階である「意識変容」や「行動変容」を期待して書かれているはずである。

 学級通信を書く以上、私を含めた多くの先生方は「できるだけ多くの人の心に届けたい」と願うはずだ。しかし、渡辺先生はここに学級通信の1つ目の落とし穴があると指摘する。多くの人に届けたいと思うほどに文章を届けるターゲットは曖昧になり、それにともなって文章の中身もぶんやりとしたものになってしまう。私も学級通信を出しているが、たしかにあたりさわりのない授業の様子を載せることが多いと、どきりとした。「ターゲットを絞り込んでいないこと」が1つ目の落とし穴である。ゆえに書くことのトレーニングをする際には、「文章を手渡す相手のことをどれだけイメージしているか」が重要であるという。

渡辺先生は講演の際に、「たった1人のターゲットを決めて、その方の心に届くように話をすること」を一番大切にしているそうだ。この文を読んだときに、私は少しひっかかった。講演にはきっと多くの人が集まるだろう。それならば私だったら、できるだけ多くの人の心に届くように話したいと思ってしまう。しかし、渡辺先生の考えは違った。「その方の心に、可能な限り深く届くように話をするということです。それが成功すると、不思議と会場全体の多くの人の心にも響くのです。」講演も通信も、文章か音声かの違いはあれど、思いを言葉にして伝える営みである。その双方には、「たった1人の心に深く届く言葉」は、往々にして「多くの人の心にも深く届く言葉」になるという共通点を渡辺先生は見出している。目から鱗の考えである。私はいままでより多くの個人の心に言葉を届けたいと思っていた。しかし、ちがっていた。言葉を届けたい1人をリアルにイメージして、言葉を真剣に届けようとするからこそ、多くの人の心を動かす言葉になるのだ。では、どうしたら、そのたった1人に言葉を届けらえるのだろうか。

「たった1人の心に届く言葉」は、その子のことを詳細に思い浮かべ、「一番ほしいであろうメッセージ」を想像するところから生まれる。そして、たった1人の心に届いたメッセージは、空間だけでなく時間すらも超越して広がっていく力を秘めている。渡辺先生は実際に書いた2通の学級通信を紹介している。どちらもその子1人にスポットを当てたもので、自分がそれをもらったと想像したら、どれほど嬉しいだろうかと思う。そんな2通の学級通信には、ある共通点がある。それは、「一見すれば失敗体験や弱みとみなされるものが並んでいること」である。渡辺先生によると、すでに「心が動きやすい要素」が多分に眠っているのが、自分の苦手さだったり短所だったり失敗談だったりする。そこに、思いもよらない形で価値を認めてもらったり、かすかな成長の兆しをキャッチしてもらえたりすると、そこに「意外性」や「ストーリー」が生まれてくる。つまり、「気になるあの子の行動」には、意識変容や行動変容につながる「たくさんの宝」が眠っているということなのだそうだ。気になった人は、ぜひ本書の渡辺先生の学級通信を読んでほしい。一見すると失敗談に見える出来事から引きだす児童への価値付けの視点は、実際に読んで見ないとわからないだろう。

学級で伝えたい思いがある際には、その行動を一番していない子をターゲットにする。なぜなら、一番成長がわかりやすいからである。ターゲットが決まったら、相手のことをクリアにイメージする。そして、その子の納得や共感が生まれやすい条件に対して、心に届く言葉を書きだしてみる。こうした一連の思考作業が意図的に行えるようになると、学級通信は学級経営の協力な助っ人へと昇格するらしい。

この章の最期に、渡辺先生は相手に届きやすい言葉を考えるためのトレーニングを紹介している。相手がほしい言葉や響く言葉をその人になりきるつもりで考えるチューニング力を磨くトレーニングである。こちらも本書を購入してぜひ挑戦してみてほしい。誰か真剣に思いを届けたい人がいる人こそ、このトレーニングに取り組んでみてほしい。

 

2 COMMENTS

三児のパパながた

神要約!のーまんさんの現時点での要約の自己ベストなのでしょうか?素直に実行するのーまんさんのこれからの成長が計り知れませんね😆
何度聞いても読んでも、唸れます。
今日だけで3回は聞き直しました笑

自身の数年前の自己ベスト学級通信を引っ張り出してみて、のーまんさんの観点で見直してみたところ
私も気になる生徒、頑張っている生徒、保護者、全然ターゲットを絞れていませんでした😅これは伝わってなかったのだと初めて、その時の教頭に言われた意味がわかりました。
逆に言うと、夏休み明け、ターゲットを絞って通信を書くことが楽しみです!!

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nomat0901

大変ありがたいコメントありがとうございます。力水になります。この夏の期間、学級便りを見直すのに本当にいい期間だと思います。1人の姿を思い浮かべながら、学級便りこの夏に1枚仕上げたいと思います!

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